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NPOの真の役割

  NPOへの期待が高まっている。構造改革という名の静かな革命が起きているような昨今であるが、特に既存の組織に対する見直しとIT社会を前提にした新しい組織が求められている。中央集権から地方分権へといった流れもそれに拍車をかけている。最初の動きは中央省庁の再編であるがこれは案の定、羊羹のきり方の変更で国家予算の大枠や内容はあまり変わっていない。今度の特殊法人の改革はもっと実質的な変化をもたらすようになるであろうと期待している。また企業のほうもリストラやリエンジニアリングでかなり変わってきていることはいまや身にしみて実感できるようになってきた。こんな状況の中でNPONGOが注目を浴びてきている背景を考えると共に、NPOに何が本当に期待されているかを考えてみた。
 日本社会は村社会といわれてきた。また縦社会とも言われてきた。中央集権的な社会構造が企業の形態にも及び各省ごとのの系列の中に企業が取り込まれ、それを支える特殊法人があり、企業は企業で系列を傘下に置き、極端な場合は城下町を形成していた。大学の序列から企業の序列まできれいに縦の序列が出来上がりその中で人々は安住してきた。日本社会の安定性が安住性になり社会の締め付けはきついが精神的には楽な部分もあったのである。旧ソ連の共産主義社会よりも平等で安定的な社会でありそのことが高い治安にも繋がっていた。水と安全が只であった時期が長く続き平和ボケにつかりこんでいた時期でもある。このように考えてみるとグローバル社会、IT社会といわれるものがもたらすものは、これまでの日本的な社会のあり方をことごとく壊す方向に働いている。その中で人々は大いに不安となり方向を見失っているのではないか。社会の中で組織に属し組織に忠実に生きていれば一生安泰であるという錯覚の中で生きてこられた幸せを今失いつつある。これはまるで共産主義国家の中で国家に忠実でありさえすれば仕事の効率や意味を考えなくてもやって来られた旧ソ連邦の人々と同じである。ソ連崩壊後十年たって一部の人々はソ連邦時代を懐かしがっていると聞く。急に個人の自立を求められてもどうして良いか分からない人々も多いらしい。日本でもお上に頼ってきた多くの人々も案外同じような気持ちでいるのではないであろうか。しかしソ連邦が元に戻れないと同じようにグローバル化もIT化も、もう後戻りは出来ない。只、正しく対応する事を心がけるしかない。背景はこのくらいにして、ではこの静かな革命が進行する中でどう対処したらよいのであろうか。その答えは個人の自立が求められている現在、個々人で見つけてもらうしかない。しかし社会全体として対応すべき点はある。その一つの答えがNPOではないであろうか。個人が自立を求められる社会の先輩は言うまでもなくアメリカである。そのアメリカはこれまたNPO先進国でもある。グローバルスタンダードが実質はアメリカンスタンダードであってみればこれは至極当たり前の事かもしれない。ではアメリカではNPOは社会でどんな役割を担っているのであろうか。実は、意外にも古き良き時代の日本の村社会のようなものである。現代的に言えばコミュニティーの形成である。文字通り地域コミュニティーのこともあれば、同じ目的をもった人の集まりであったり形態は少し異なるが。人種の坩堝とかモザイクとか言われ個人主義の国であれば国としてのまとまりをもたらす別な仕組みが当然必要であろう。それは一般的には法とフラッグと言われているものであるが、見落としてならないのがNPONGOの存在である。アメリカ人は意外に出身地を気にするし大学の同窓会もつながりが強い。アメリカは実力主義の世界と思われているが案外コネ社会でもある。大学も出身者の種々のアーカイブスを作ったりして歴史と伝統と人脈作りに余念が無い。そのような活動をささえるのもNPOである。同窓会そのものも当然NPOであるからNPOが社会の根底を支えているという感じである。日本では活力あるまちづくりということがいわれるがアメリカの事例を見ると活力の背景にその地域の「住民力」のようなものを感じさせられる事があるがその背景もNPOである。大げさに言えばアメリカと日本の現在の活力の差はNPOの力の差といっても良いのかもしれない。一方でアメリカは市場経済最優先で優勝劣敗の激しい競争をやりながら一方ではNPOなどのセーフテイ-ネットを張る.この絶妙なバランスが力の源泉である。市場に乗らない個別分散型のニーズやウヲンツなど一般的に非効率な分野を中高年などの個別分散型のエネルギーを使って満たすと同時にNPO参加者にも心の満足を得させる。これがこれからのNPOの役割であり、この基本が満たされなければ、儲からない営利企業と何ら変わるところが無い。具体的な事業はこれまで縷縷述べてきたが、この文中でも述べた建設業界に関わる種々のアーカイブスの事業などは最適なものの一つであろう。最後にPF。ドラッカーの言葉「NPOは生き甲斐創造産業である」を記す。

 

                 専務理事  鈴木 啓允
                                                             
  日刊建設工業新聞平成14年 4月 2日 掲載