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永く愛される建物とは

 建物が永く愛されるという事はどういうことであろうか。ここでいう愛されるとは使用される事を意味しているのであって,観賞用ではない。歴史的建造物で使用されず只保存されているものも意味がないとはいえないが,永く愛されているというのとは若干ニュアンスが違う。建物の長寿命化を考えているのは建物を只単に長持ちさせ保存しておく為ではない。建物を永く使っていこうとするものである。では永くとはどれ位の事を考えるべきなのであろうか。よく例にあげられるイギリスの建物の平均使用年数が140年を超えている事を考えれば百年は目標としては十分な長さではない。7世代あとのことを考えて物事を決めるというアメリカンインディアンのことを見習えば200年くらいの長さは当たり前であろう。
さて愛されるという事であるが、人間の感情でこれほど複雑なものはない。誰が何の為に
,何を,どんな風にと考えていくと手がかりが得られるかもしれない。

****誰が愛するのか
建物の所有者,設計者,施工者,使用者,近隣住民,一般社会など建物を取り巻く関係者は多い。そして立場が違えば,建物を愛する理由も愛し方もそれぞれである。

****何を愛するのか
建物を愛するといっても建物のどのような要素を愛するかは、人によってそれぞれであろう。その建物の美しさなのか,使い勝手なのか,一部か,全体か、又,自分の関わった部分や,思い出か、これまた千差万別であろう。

****どのように愛するのか
 愛し愛され方ほどいろいろな形や、やり方のあるものはない。可愛さ余って憎さ百倍とか、愛しすぎて自分の消えるときはもろともなどという愛しかたは困りものである.出来るだけ偏執的でなく普遍的な愛し方にしてもらうほうが望ましい。悪女の深情け的なのも考えものではある。

****何故に愛するのか
理由は環境に配慮してという事でも、勝手な思い入れであっても長続きする愛なら何の理由でも構わない。作っては壊し,又作るというパターンから抜け出せればよい。
このように整理しても,ここから結論を導き出す事は不可能である。難しいからといって議論を中止するわけにはいかないから筆者の独断で一つの方向を提案する。

****   価値観の転換を促す
 使い古されたものほど価値があるという、例えば古着のビンテージものとか、骨董家具のように,永く大切に使われてきた事に価値を見出すような,古くて新しい価値観を醸成していく。.方法としては中古住宅の新しい価値観に沿った評価方法を確立する必要がある。

****  社会的な条件の整備
都市計画法や相続税法などを()の価値観にあわせていく。例えば永く(30年以上)使った建物は実際の価値に関わらず相続の際には無税にするとかインセンティブを与える。

****   物理的条件を改善する
 200年住宅というとまず議論になるのは材料をどうする,構造をどうする,設備は何年もたせるかといった議論になりがちであるが()の方向が出ればSI住宅など
具体案はすでにあるし,研究も急速に進むと思われる。日本にも永く使われた住宅の例は数多くあるし、愛されていれば身体の弱い子でも長生きできるかもしれないわけで、価値観の転換が第一である。
具体的な対策としては、(2)は行政の担当であり(3)は産業側の問題である。しかし(1)は,最優先の課題でありながら、強制できないし、かといって自然に変わるものでもない。この問題への取り組みこそ我々NPOの担当すべき分野ではないかと考えている。建設環境情報センターの建設倫理研究会では永く愛される建物をテーマに研究を続けてきたが近くまとめて発表の機会を得たいと思っている。