ダンピング防止策へ一つの提言
国土交通省は新しいダンピング防止策について6月29日付で関係部局に通知した。その大きな柱は保証会社との連携を強め、低入札価格調査制度の対象工事については、前払い金の使途監査などを徹底する。経営情報なども保証会社から提供してもらって判断の資料にするという事である。その他の施策は従来とほぼ同じのようである。経営情報は過去の姿でありアップツーデートな情報ではない。現在の経営情報は現状を調査するしかないがそのための方法が確立されてはいない。したがって過去の経営情報を使うのは止むを得ないとして、しかしである。それならその情報は入札前に活用すべきであって、データが悪ければ入札に参加させるべきではない。低い入札価格を入れたからといって、慌てて過去のデータを引っ張り出し対策をといっても始まらない。経営情報を生かすのは入札前、入札参加資格の段階である。もう一つの対策の前払い金の使途監査は、当然のことながら契約を交わして工事が進行してからの事である。次の工事の参加には差し障りが出るので抑止力はあるかもしれないが、当該工事の契約の適否には関係なく、低い入札価格が一旦はまかり通ってしまう。勿論、契約に至る前に保証会社は、工事内訳、工程表、落札価格に対する事情聴取など行いチェックをするが、これは工事費の適否の判断よりも、契約しても前払い金が焦げ付く可能性ありや否やの判断に基づく可能性が高い。したがって必要経費などが極端に低くても、工事単価がそこそこであれば契約に至ってしまう事が多い。
しかしダンピング排除の理由は一体何であろうか。第一は発注者を守る事である。ダンピング受注してその後工事を完成するまもなく倒産してしまう事がある。これをまず避けなくてはならない。次に安値にあわせた手抜き工事を防ぐ事にある。品質確保は発注者にとって最重要テーマである。第二は、産業界の健全な競争市場の確保のためである。
建設産業以外では公正取引委員会は不当廉売の摘発を行っているが建設業ではほとんど摘発された事がない。ダンピングの認定が難しいからである。第三は社会の公正さを守る事にある。ダンピング排除の理論は最終的に集中による弊害が起こる事を避ける事にある。結局は寡占状態になって消費者にしわ寄せがくる。建設産業は簡単には寡占状態にならないからこの点では感覚が鈍い。しかし理屈は同じである。
国土交通省の新しい対策が、次回からの参加を規制する抑止力を狙ったものならそれはそれで意味があるし、長い目で見れば効果を発揮するであろう。しかし、強者による不当廉売の場合、財務体質や経営状況にはなんの問題もないのであるから有効な手立てにはなりえない。それに、発注者自身は、強者による廉売はある意味では歓迎するところでもあるので、排除するのは難しい面がある。民間の場合は特にその傾向が強い。それでも、建設産業界への影響は甚大なものがあり、長期的に見れば消費者へしわ寄せがくる事は間違いない。では、不良不適格業者によるダンピングも強者による不当廉売も防ぐ良策はないのであろうか。そこでT私案であるが次に提案してみる。
例えから入って申し訳ないが、来年ワールドカップが日本で開催されるという事で盛り上がっているサッカーのルールにオフサイドがある。あのルールがなかったらサッカーというゲームは恐らく全く違ったものとなり現在のような隆盛は見られなかったであろう。あのルールがあってそれを厳格に適用する為のレフリーがいてサッカーというゲームが成り立っているのである。建設業界における入札は一種のゲームでありそれなりのルールはある。しかし、レフリーがいないのである。発注者はレフリーのように見えるが、これはホームのサポーターのようなもので冷静な判定は下せない。
サポーターは贔屓のチームが勝てば良いのであって、発注者としては安いほうが良いのである。民間の場合は発注者側に建設に関する知識がない事が多く、私どものNPOでは発注者支援事業としてレフリー役をかって出ている。既に実際のケースがあり喜ばれている。公共工事の場合低入札価格調査制度がレフリー役であるはずであるが、発注者自らはレフリーには適当ではない。理由はこれまで述べた通りである。そこで公共工事には、全くの第三者機関が必要であると思う。会計検査院のような独立機関である。屋上屋のようで、行政改革の時代に逆行する様に思うかもしれないが、低価格入札が生じた場合のみ機能すればよいからそんなに大きな組織でなくても良い。これが出来れば、逆に予定価格の拘束性を緩め発注者による積算を目安的なものに変え、そのための人員を削減してスリム化すればよい。具体的には人員の削減と移動で行える事であり、要点は発注者から独立性を持たせることである。これが機能して、突っ込みすぎはオフサイドで失格になる事がはっきりすればダンピングをするものはいなくなると思われる。一度業界でも議論していただけるとありがたい。民間のケースについては別稿で詳しく述べたい。
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