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リスクマネジメントの最大の課題

         リスクマネジメントが脚光を浴びている。昨年の同時多発テロの発生や南シナ海の不審船の沈没など日本社会にもリスクの発生の確率が高くなっているからであろうか。しかしよく考えてみると建設業界の挑戦は特に土木工事においてはまさにリスクとの戦いであったはずで今ごろリスクマネジメントと騒がれてもぴんと来ない人も多いのではないだろうか。しかしリスクマネジメントという概念は1920~30年ごろ財務や保険の分野にのみ適用されていたそうである.それも欧米であり日本ではない。日本では現在も金融保険業界ですらリスクマネジメントという考え方は根付いていない。それが証拠には同時多発テロの再保険の関係で大正火災が破綻した。その原因がその保険の再保険を請けながら再々保険をしていなかったことによる。事故が発生したら500億円を超える保険の支払が予想されるのに保険のプロたるものが再々保険に出していなかったではリスク管理が全くなされていなかったとしか言いようがないであろう。他の保険会社も同様で、事故が発生してから再々保険がなされていなかった事に気づいたということである。その様な損失は結局保険料の高騰という形で消費者に付けが回ってくるのだからリスクマネジメンを怠った経営者の責任は重いといわねばならない。
ではリスクマネジメントの先輩のような気のする建設業界の状況はどうであろうか。特に土木分野の場合、自然を相手にするので、自然条件の変化に対する備えは確りやってきた。海洋工事や山岳トンネルなど自然条件の厳しい環境の中で行われる工事は施工計画の中に自然をどう読み込むかが最大のマネジメントの課題であった。その他安全管理、労務管理、資材管理、工程管理と全ての管理がリスクとの戦いであった。その意味ではリスクマネジメントの概念は建設業界にとって耳新しいものでもなんでもない.工事保険なども次第に充実してきており現場のリスクに関する限りかなりの対応がなされているといっても良いと思う。
 しかし現在のリスクマネジメントの目的は現場のものにとどまらず経営全体に対する考え方になりつつある。リスクの存在を企業体全体で考えてみるとこれまでと全く違った状況が見えてくる。例えば、建設工事の縮減、パイの縮小など建設産業を取り巻く環境の変化などもリスクの最たるものであろう。他の製造業であれば技術の進歩に伴う自社技術の陳腐化などはスピードが速いだけにリスクも大きい。現在の地球環境問題の出現などは経営環境の変化を激しくする大きな原因である。リスクマネジメントでは先ずリスクの特定が最重要であるが確かにそれが出発点であろう。その時一番のポイントは長期の視点と短期の視点に分けて考える事である。短期の問題は自然条件や景気の動向などこれまでもやられてきたものが多い。しかし問題は長期の視点である。地球環境問題は当然こちらになるが、人口動態の変化なども長期の問題になる。人々の価値観の変化なども重要であろう。しかし何と言っても最も重要な点は暖簾、信用、今の言葉で言えばブランド力である。昔から長いそろばんをはじけといわれるが、言い換えればそこに一番のリスクが潜んでいるということではないか。企業が人、物、金の三要素といわれ最近ではそれらに情報が加わっているが、これまでのリスクマネジメントはものや金などの比較的短期的な視野で物事が考えられている。しかし、本当のリスクは人のリスクと情報のリスクに移り始めているといえるのではないであろうか。例えば社員の誰かが倫理問題を引き起こしたり貴重な企業情報を社外に漏らせばその企業は一挙に崩れることになる。結論を言えば倫理問題が全ての組織体の基本であるということである。情報化社会の危険(リスク)は情報の拡散速度である.一端倫理問題を起こすと事実であろうとそうでなかろうとその情報は一気に広まる可能性がある。リスクマネジメントの第二はリスクの定量化であり管理であるが人と情報のリスクの定量化はとても難しい。しかし非常に大きいということはできる。最後の対策は倫理問題に決め手は無いとしかいいようが無い。結局は経営者の考え方と経営力ということに尽きる。本当のリスクが何処にあるか、少しでも考えて頂くきっかけになれば幸いと思う。この稿を書いているさなかに雪印食品のニュースが飛び込んできた。解説の必要は無い.典型的なケースであり企業の存亡に関わる可能性があるといわねばならない。それにもう一つのニュース。国土交通省は独禁法違反など不祥事を起こした業者の名前をインターネットで公表する事にしたということである。これまた解説の必要は無いと思う。