口利きビジネスの土壌
全国に土壌汚染が広がっている。工場の跡地や廃棄物処理の跡地などでありその対策が大きな問題となっている。これはこれで大変な問題で身の回りに犯罪だけでなく危険な事柄の範囲が拡大している。安全が只でなくなってから久しいが、現在は食の安全が確保されていない事が分かってきて普通の暮らしが普通におくれない社会となっている。何を信じて生活をして良いのか、これまでの価値観が音を立てて崩れている。政治に対する不信.お役所に対する不信、会社に対する不信あらゆるものに対する信頼感がなくなっている。
以上は社会全般に対する感想であるが、このような状況が特に建設業界ではより深刻な影を落としている。建設投資が急速に縮減していく中で、なりふり構わぬ生き残りの戦争が起きているが、競争の域を越えたサバイバルゲームになっている。そこにはこれまであった日本的なルールまでも踏み外した仁義無き戦いとしか言い様が無いものもある。言うまでも無く最近発覚した二つの口利きビジネスといわれる事件もその類である。この二つの事件はこれまでの事件と同質な部分もあるが、建設業界の深い混迷に根ざした新しい部分もある。それは建設業界が見かけだけでも仲良しクラブであったものが疑心暗鬼の坩堝となり他人を出し抜いても自分だけ生き残れば良いという考えになっているがゆえに、甘い蜜に誘われるというよりも毒が入っているかもしれないと疑いながらも目の前のご馳走に手を出してしまう飢えた人のようである。
勿論、仕掛けたほうが悪い事は言うまでもない。しかしその仕掛けに乗った政治家はもっと悪い。そしてそれを見過ごした官僚も同罪である事も当然である。ここまでは誰も異論は無い当たり前の事である。しかしこういった存在を許してきた建設業界と行政のあり方も問題なしとはいえないであろう。この二つの事件によって国民の公共工事に対する見方は灰色から限り無くクロに近くなったという感じがする。心象は全くのクロである。このことが与える影響は表立っては政治的な問題となるであろうが実際は建設産業界に与える影響のほうが大きいと思われる。準大手の企業が次々に破綻していく中で、このような産業イメージで優秀な若者が業界に入ってくるはずも無いし、建設関係の教育機関も危機的な状況になりかねない。必要な公共工事もままならなくなったり、特にメンテナンスが大切な社会になって、これからは地味でまじめな技術者が必要な時代に新しい優秀な人材が期待できなくなればことは国民レベルの問題である。
土壌汚染に対する対策は大抵は土壌の入れ替えでやられることが多い。この建設業界の土壌汚染にはどんな対策があるであろうか。政治倫理の確立と公務員の規律や監視が有効であろうとは思うが、これまで何度も言われてきた事であまり期待できない。ここは第一番の犠牲者である納税者の行動に期待するか、隠れた犠牲者である心有る建設業界の人の行動に期待するしかない.納税者はオンブズマンなど既に行動を開始しているが建設業界で行動を起こす人がいない。このことが国民の業界に対するイメージをいっそう悪くしている。所詮は業界ぐるみさとか一蓮托生、同じ穴の狢という声が聞こえてくる。
21世紀は情報化社会でありイメージが支配力を持つ時代である。これまで問題にならなかったり分からなかった事がこのところ問題として吹き出てきている感がある。情報が格段に取りやすくなった事が原因である。小泉首相が世論を味方に政治改革や構造改革を志しているように情報化社会は見えない消費者に直接働きかける事が可能な社会である。私どもの建築無料相談もネット上の相談のケースが増えつつある。そういう時代なのである。
これまでは消費者たる発注者に直接アプローチする手段を持たなかった建設業界であるが電子入札など変化が出てきている。変革の時代であり変革のチャンスでもある。我々は今技術者倫理を含めた新しい建設の経営手法を構築し広めていくつもりで準備を進めている。土壌汚染対策のように心有る建設産業人の増大によって汚染土壌を入れ替えていくきっかけになればと考えている。
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