ダンピング防止への取り組み
これまでも、(倫理的な競争)その他で、適正価格はダンピングと談合の間にあると繰り返し述べてきた。それを実現するには建設倫理が必要とも述べた。しかし倫理を唱えるだけで世の中がよくなるなら、よく言われる(警察は要らない)で話は終わってしまう。
やはり具体的な手立てを講じないと世の中は変わっていかない。そこで我々NPOとして、NPOだからこそ出来る手段を考えてみた。
これまでの建設工事の発注システムでは、発注者は設計事務所を選定しそれ以降は、設計事務所を信頼して、施工者の選定から工事監理まで確りやってもらう事になっている.それに特に異論があるわけではない。ただ、通常の発注者は建設の知識がないのが普通であり、最良の設計者を選ぶ事は難しい。ましてや、施工者の選別はほとんど不可能である。入札参加者の選定ぐらいは出来るかもしれないが、結果の査定や、判断は全く出来ないと思われる。大抵は、金額の多寡で決めるしかないと思う。又、契約に至っても、その後の工事の状況は例え現場に行っても内容はなかなかわからない。本来、監理契約をすれば、設計事務所が万全を期してくれるものと考えるのが普通であるが、現実は設計監理と現場管理とは違うし、施工の完璧さを確保するには十分なものではない。現在の契約形態では施工の責任は施工業者にあり、監理者にはない。仮に、設計者が工事の品質まで責任を持つつもりでも設計事務所にそれの出来る人を確保しておくことは事実上難しい。世の中に手抜き工事がなくならないのは、倫理の問題もさることながら、制度的な問題もあることを指摘しておきたい。公共工事や大会社の工事の場合、専門の技術者がいて、それなりの機能を果たしているが、大半の民間会社や、個人の発注者にそんな事は期待できない。
過去一年間、建築の無料相談をやりながら、発注者の戸惑いがどのような点にあるか、いろいろな事例にぶつかって考えさせられた結論は、さまざまな事柄について、発注者をサポートする役割をする人間が必要であるという事であった。発注者の支援者というと、今話題のコンストラクションマネジャーとかプロジェクトマネージャーとか言う存在が頭に浮かぶが、今の日本の建設事情を考えるとそこまで一気に持っていくことはかなり困難が伴う。
その辺の事情については紙面が足りなくなるので別の機会に譲るが、とりあえず必要なのは、発注者をコンストラクションマネジャーのように全面的にサポートするのではなく色々なポイント、ポイントでサポートする事の出来る機能である。例えば、事業計画の段階でのアドバイス、設計事務所の選定、工事業者の選定、入札監理、工事契約のアドバイス、工事監理、品質管理、メンテナンス上のアドバイスなどなど、部分部分で発注者をサポートすべきポイントはある。しかし、現在の建設システムでは、その様なポイントでの発注者支援をするシステムがない。この辺から取り組む事なら、現実的である。多くの多彩な技術者のそろった組織であるならばどんな問題にも幅広く対応できるし、ポイントだけでの支援サービスも可能であろうと考えた。そして、その様なサービスの機会を捉えて、環境問題やダンピングの防止など、発注者に働きかける必要のある事柄についても行動に繋げる事が出来る。その様に考えて、当センターでは建築の無料相談活動の次のステップとして、建設環境コーディネーターという新しい職能を育てていこうという事になった。建設と環境の両方に明るいコーディネーターの存在は我々の目的としている建設倫理の実現に大いに貢献してくれるものと思う。この一年間に建設環境コーディネーターの活動の成果が実った実例が現れつつある。一つ紹介すると、あるプロジェクトの入札に際し、相談を受けて、追加指名業者の推薦と、入札方法のアドバイス並びに入札結果に対する評価書の作成というサービスを提供した。その過程でそのプロジェクトに対する適正価格を提示し、発注者はこれを基に施工者との協議に入り双方円満に契約にいたることが出来た。その際我々が常に念頭に置いていたのは、施主の支援者であると同時に、適正価格での成約であり、ダンピングと談合の双方を排除する事であった。又環境に対する配慮のアドバイスも忘れてはいない。これらの活動を通して建設倫理の普及を目指すが、これが実際の行動として動けるのは、我々がNPOとして活動しているからである事は自覚している。逆にいうと、消費者たる発注者のサイドにも、業界のサイドにも立たないNPOだからこそ出来る活動なのかもしれない。しかし、我々の目指す環境倫理も含めた建設倫理の確立は、いずれは我々の手を離れて業界の中で当たり前のように行われるようになって欲しいものである。
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