住宅価格破壊の行方
住宅の価格破壊が進んでいる。バブル盛んな頃住宅の坪当たり単価は100万円に迫る勢いであった。それが企画住宅と言う制約はあっても坪当たり25万円のものもあるという。およそ4分の1である。IT産業と違って価格の硬直性が高いと思われていた建設業界にとってまさに革命的な事柄であろう。土地の値段も場所によって異なるがおよそ3分の1になっているから庶民が住宅を入手しやすくなった事は事実である。年収の5倍以内という政府の目標も遠いものではない。地域によっては既に達成されているところもあるであろう。誠にめでたい事である。しかし業界としては喜んでばかりいられない。衣料品と違って安くなったからと言って消費者は家を倍持つことはないのだから多少戸数が増えても売上は半減するであろう事は間違いない。消費者のニーズがそこにあるのなら住宅産業の売上が半減しようと構わないし産業としてはその中で経営していくしかない。それが自由主義経済の原則であろう。
消費者は王様であるという言葉もある。しかし、それには前提がなくてはならない。即ち消費者は王様といっても正しい消費の判断のできる消費者について言えることであろう。駄々をこねる子どもや、だまされやすい高齢者などが良い消費者でない事は往々にしてある。より良い消費者が多くなるには適切な情報が消費者に与えられなければならない.その上で消費者に賢い消費者になる事を期待する事ができる。そこで産業側が果たさなければならない点を価格破壊の背景になっている事情から探ってみたい。
価格破壊が起こっている背景には主に3種類あると言えそうだ。一つは建設のシステムが大きく変わりつつあること。二つ目は規格化による大量生産でスケールメリットを追求したこと。三つ目は工法の合理化を行った事。そして、これらの組み合わせである。一つ目は一種のコンストラクションマネジメントであり,施主が各工種の専門職に直接発注するもので、大きなプロジェクトでは徐々に普及している事の住宅版である。ここでの問題はコンストラクションマネジャ−を誰がやるかである。発注者は全くの素人と考えねばならないからマネージメントに要する能力は大規模プロジェクトと何ら変わることがない。今は設計事務所がやっているケースが多いが設計者が施行の能力を持つのはなかなか大変である。経費的にも設計料と別に貰わなくてはならないが,その辺の理解が得られるかどうか。もう一つの問題は工種ごとの分離発注で落ちが発生しないかという事である。分離発注をすると言っても発注者自身は素人なのであるからその責任はコンストラクションマネージャーにある。
そのリスクを設計事務所が取れるかどうか。欠陥が出たときや専門業者が倒産した時のリスクは。消費者保護のシステムを考えておく必要がありそうである。これらは技術的なことであるから解決はできるであろう。しかしこの辺の問題を本当に解決するとなると従来の工務店への発注とどのように違うのか。これまでの工務店の存在価値は何だったのか。一見、発注者にとって分離発注によって透明性が上がったように見えるが素人の発注者にとってはコンストラクションマネージャー任せの相も変わらずのブラックボックスでしかない。それでも消費者が選択すればよい事かもしれないが、問題は二つ目である。住宅は個人の私有財産であるから所詮は個人の選択の自由なのであるが、マスコミの報道の中で住宅業者がインタビューに答えている言葉が気に掛かった。大量生産の規格品で安くなっているのであるから当然の事なのであるが、この企画住宅で新規着工の1割を受注する事ができればというのである。実現は難しいとは思うが,現実になったら日本全国つつ浦々,同じような建物が建ち並ぶ光景が出現しあまりいただけない。同じ地域に同じような建物ならまだしも、ローカル性も何もない建物はどうかと思う。それと三つ目の工法の改良であるが詳しい事はわからないが色々な改良で現場施行の部分は20%以下で従来の現場での必要な人工は半分以下であるという。これによって工期も半分以下になり僅か一ヵ月半で完成するという。同じ物を作るなら工期は短いほうが良いには違いないが、これでは家を作るという感覚からは益々遠ざかり,自動車と同じで家は買うものになり,飽きたら買い換えるものになりかねない。この地球環境時代に大量消費の大量廃棄は止めなくてはならないのに。この事は永く愛される建物作りには大きな壁のような気がする。力はなくとも何かが違うという事を消費者に言い続けるしかないのであろうか。
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